こんにちは、コンソーシアム事務局の松本です。2021年10月20日に開催された第1回八幡平市メディテックバレーシンポジウム取材をしてきました。タイトルは「人口減でも高齢者の見守りと地域の医療を持続可能にする」、会場となる岩手県八幡平市西根市民センターには100人以上が集まり、活発な議論が展開されました。その様子についてお伝え致します。
-主なトピックス-
1. シンポジウム開催に伴う挨拶
八幡平市長 佐々木孝弘氏
2. プロジェクトの概要と起業志民プロジェクトの紹介
八幡平市商工観光課企業立地推進係長 中軽米真人氏
3. 過疎地におけるオンライン診療の有用性と今後の可能性
八幡平市立病院統括院長 望月泉先生
4. 見守りサービス「Hachi」紹介・ICTを活用した市内見守り事例紹介
AP TECH株式会社代表取締役 大西一朗氏
5. コンソーシアム新規参画にあたってのビジョン
一般社団法人岩手ドローン操縦士協会IDPA代表理事 石川啓氏
6. 過疎地におけるドローン活用の可能性
DRONE FUND 大前創希氏
1.シンポジウム開催に伴う挨拶
八幡平市長 佐々木孝弘氏
八幡平市メディテックプロジェクトの始まりは、AP TECH株式会社の大西一朗氏が起業時に田村正彦前八幡平市長と面会された際に「秋田県との県境にある八幡平市立田山診療所の常駐医師が不在となり、望月統括院長を始めとした医療スタッフの大変な尽力により今はまだ支えられているが、大変心苦しい。この状況をどうにかできないものか」と相談をしたことです。
医療へのアクセスは、慣れ親しんだ地域に安心して住み続けるために欠かすことができません。医師の偏在は、日本全国で問題視されています。八幡平発祥の持続可能な社会モデルを横展開していくことによって全国の課題解決に向け、国にも積極的に働きかけをしていきたいと考えております。
八幡平市メディテックバレーコンソーシアムの取り組みは、地方創生推進交付金Society5.0 タイプに認められ「遠隔診療・見守りDX基盤の構築による持続可能な地域づくり事業」の交付内示を受けました。地域発展のため、これからも市として挑戦を続けてまいります。
2.プロジェクトの概要及び起業志民プロジェクトの紹介
八幡平市商工観光課企業立地推進係長 中軽米真人氏
八幡平市メディテックバレーコンソーシアムが目指すところは、地域が人口減少に立ち向かうための仕組みを作り上げて全国へと広めることです。
日本社会では人口減少による、若者の流出に伴う限界集落の発生、地域福祉の担い手不足、後継者不足に伴う商用活動・医療活動の継続性の困難等、様々な社会問題が生じています。八幡平市も1960年から人口が減り続けており、人口減対策の取り組みとして2015年から起業志民プロジェクト(▶詳しくはこちら)に取り組み情報通信業を中心とし起業振興に力を入れてきました。また近年では、地方創生と合わせ、未来技術を活用した持続可能社会の実現に取り組んでおります。
慣れ親しんだ地域に安心して住み続けるためには、医療と福祉へのアクセスを確保することが肝要です。八幡平市メディテックバレーコンソーシアムでは、医療と福祉への担い手不足問題の解消に向け、AIやICTの力を活用した遠隔での医療と高齢者の健康と安心安全な見守りの実現を目指す取り組みなどを実施しています。
メディテックバレーの全体構想としては、高齢者に医療と福祉の両面から安心と安全を提供することを主眼としています。例えば患者の心拍の情報等を遠く離れた医師が診療の役に立てる遠隔診療や、位置情報・運動情報等を遠く離れたところに住む家族や福祉関係者の方に共有し見守ること等を想定しております。この仕組みはメディテックバレーで作り上げた市販の腕時計型の機器を身につけるだけで、安価にバイタルや位置情報を見守ることができる技術によるものです。
この未来技術を遠隔診療や見守りを通して社会に実装し、地域を持続可能に変えていくことを一日でも早く実現するために、メディテックバレーコンソーシアムは全力で取り組んでまいります。
3.過疎地におけるオンライン診療の有用性と今後の可能性
八幡平市立病院統括院長 望月泉先生
私は長年、岩手県立中央病院の院長を務めており、主に消化器外科医として急性期医療を行なっておりました。2019年3月末の定年退職後に八幡平市の病院事業管理者および八幡平市国民健康保険西根病院の統括院長に就任し、その後八幡平市立病院統括院長に就任しました。
地域医療でのオンライン診療活用として、常勤医が不在である田山診療所での取り組みについてお話しします。診療所の継続と充実を図るということを目的に、現在は常勤看護師が来院された患者さんをサポートし、私は40Km離れた市立病院からオンライン診療を実施しています。(D to P with N)ビデオ通話により顔色や調子確認、日常のバイタルをモニタリングする見守りサービス「Hachi」のバイタルデータも活用し、電子カルテを見ながらオンライン診療を行なっています。なお、田山診療所では現在はまだ電子カルテがインターネットに繋げられないことから遠隔で医師が看護師に指示を出し代行入力してもらっています。
既存システム活用による無理のない体制を構築することで、既存人材を活用し新たに人を雇わずともオンライン診療を実現することが可能となります。オンライン診療の課題としては、医療水準維持への不安、セキュリティへの不安、運用システムが複雑化し患者さんが操作できない等が挙げられますが、看護師が患者さんの側につき適時サポートしながら診療を行う方法が有効な策であると考えられます。なお、この仕組みは高血圧や糖尿病などの服薬治療をしながら地域で暮らしている慢性疾患の患者さんが対象です。急性期疾患は対象ではありませんのでご注意ください。
20年以上前から厚生労働省は遠隔診療を推進していましたが、様々な制限があり、普及は緩やかでした。しかし近年、コロナ禍等の影響により仕組みに多くの制限をつけない形に変化しております。今後も仕組みを上手く活用しながらオンライン診療に取り組みたいと考えています。八幡平市メディテックバレーコンソーシアムでは、2021年度はオンライン診療を開始し、2022年度からは服薬指導も検討していく予定です。また将来的な展望として薬のドローン配送を期待していますが、まずはオンラインでの服薬指導から実現していきたいと考えております。
4.見守りサービス「Hachi」紹介・ICTを活用した市内見守り事例紹介
AP TECH株式会社 大西一朗氏
私は岩手県出身ですが、1989年から2015年まで東京で働いており、AppleやCisco Systems等のアメリカ企業に勤めておりました。本社がシリコンバレーにありますので、八幡平市でもシリコンバレーが作れるのはないかと考えておりましたところ、起業志民プロジェクトを知り、実現を確信いたしました。
AP TECH株式会社のメインサービスである「Hachi」は、私が不在の際に高齢の母が転倒し骨折してしまい、Hachiのような遠隔での見守り等ができるツールを自分で作るしかないと思い始めたことがきっかけで誕生しました。現在では、八幡平市メディテックバレーコンソーシアムの取り組みにも活用されています。Hachi (▶詳しくはこちら)はバイタルデータ取得、緊急時のSOS送信、位置情報の取得などが可能です。
現在、田山地区で実証実験が行われており、約10名の方にHachiがインストールされたApple Watchを装着いただいております。見守り成功率は95%です。地方における高齢者は増加傾向ですが、Hachiを活用することで孤独死等の問題の解決に役立つと考えています。なお、Hachiを使うためには、定期的な充電が必要ですが、アプリ画面に犬のキャラクターを起用したことにより、ペットに餌をやる感覚が想起されて功を奏しているのか、高齢の方も問題なく充電を行なっていただいております。
我々はアプリでツールを作っていますが、ツールでは世の中は変わりません。やはり、住民の皆さまや行政の皆さま、アカデミーの皆さまなどから批評をいただき、試行錯誤を繰り返しながら社会の仕組みとして実装させないと定着はしないと考えております。現在は種まきの時期と捉え、地道に普及活動等に従事しております。住民の方や、看護師の方を対象にした説明会は、2021年6月から定期的に実施しており、おかげさまでHachiの認知度も向上してまいりました。今後も実証実験にご協力いただける方を中心に普及していきたいと考えております。
オンライン診療が浸透してきましたら、見守り・介護・医療等の垣根を超えた新しい形が実現すると確信しています。また、八幡平市では起業志民プロジェクトのスパルタキャンプを通じた出会いもあり、弊社AP TECH株式会社の事業にも役立っています。スパルタキャンプ卒業生でご縁のある方と協力した弊社の事業推進や起業推進のサイクルの確立も目指していきたいと考えています。
5.コンソーシアム新規参画にあたってのビジョン
一般社団法人岩手ドローン操縦士協会 代表理事 石川啓氏
一般社団法人岩手ドローン操縦士協会(▶詳しくはこちら)は、来年度本プロジェクトへの参画が決定いたしました。私は普段、ドローンスクールを近隣で営んでおります。八幡平市とは2021年3月に、無人小型航空機活用等に関する連携協力協定を締結いたしました。
我々のドローンスクールにお越しいただく方の約半数は農薬散布のドローンの受講を目的とされ、60歳を超えた方が約7、8割です。当初は若い方々がドローンを使っていると考えておりましたが、実際は担い手不足問題を抱えている方々がドローンというロボティクスを使って今まで通りの暮らしを支えていく形となっております。
私はもともと運送業を営んでおりますが、物流業界もまた高齢化の問題が非常に大きく横たわっています。現段階では、遠隔診療後の薬や処方箋の配送等は、陸路で運搬する方法が一番問題ないです。しかし、今後高齢化の問題によって、陸路運搬サービスを維持できなくなってくる可能性があります。そのため、現在ドローンによる配送が期待されています。今回八幡平市メディテックバレーコンソーシアムでは遠隔医療を軸に取り組んでおりますが、今後、処方箋の配送、医薬品の配送、さらには買い物弱者の方の軒先におにぎりからAEDまで何でも配送できる社会の実現を目指して、チャレンジしてまいりたいと考えております。
また、メディテックバレーで活用されているHachiは、携帯電話がつながらないところでもSOSの受発信ができます。HachiのLPWAで即時情報を提供いただく仕組みによって、将来的には山岳救助の現場でのドローン利用も期待されています。例えば最短距離をドローンが飛び、まず怪我がないか等の健康状況のトリアージをモニターと音声を使って行うことは技術的には可能です。2020年には携帯がつながらないエリアで実証実験も行っています。この技術を使うと、防災に関する捜索での時間的な負担、コスト等を圧縮できる可能性があります。このような技術もHachiの持ってる特徴を活かして、サービスを推進していきたいと考えています。
6.過疎地におけるドローン活用の可能性
DRONE FUND 大前創希氏
DRONE FUND 共同創業代表パートナーの大前創希です。DRONE FUNDは、「ドローン・エアモビリティ前提社会を創る」というビジョンを掲げ、現在50社以上のスタートアップに投資をさせていただいています。
2017年にこの投資活動を始めた当初は、ドローンのビジネス活用は夢物語でしたが、2019年頃から風向きが変わり、良い技術が数多くできてきました。今はまさに、このドローン・エアモビリティーの領域で大きな資金が動き始めておりまして、世界的に見ても非常に大きな投資金額が動くようになってまいりました。
課題先進国である日本では人口減少が大きな問題の一つです。ドローンは、問題解決の一助になるのではないかと考えております。例えば薬のドローン配送を、実現化させたいと考えています。技術的には十分可能ですが、実装まで至らない要因として、技術を根付かせる人員の不足が挙げられます。地域でドローンを活用する活動をどのようにバックアップして、皆さまがどうやって育てるのかによって、ドローン物流の可能性が拓けてきます。八幡平市でドローン物流を育てるべく、私共が協力できることがありましたら、ぜひとも協力させていただきたいです。
また、2025年からは人が乗るエアモビリティーの時代が来る可能性が高まっております。これが実現すれば、例えば田山地区に無人の空飛ぶ救急車を作ることができ、瞬く間に病人を運ぶことができるようになります。この未来を作るために、ぜひとも皆さまも、ドローン、エアモビリティーの産業に注目していただきたいと考えております。一緒にこの未来を創りましょう。
以上、今回のシンポジウムの内容を抜粋してご紹介させていただきました。今プロジェクトは、シンポジウム終了後に更に、医療福祉分野、IT人材育成分野共に進化を続けています。
課題が見つめやすい過疎地からこそ、新しい未来が作っていける。
さぁ、未来をはじめよう。八幡平市メディテックバレープロジェクトに今後もご注目下さい。